2025年度 卒業論文
卒業論文の一部を紹介します。
初等教育学専攻 千田果凜
本論文は、教師の「演技性」に着目し、教育現場においてそれがどのように機能するのかについて検討した。教師はしばしば「演じる存在」に喩えられるが、その評価は一様ではない。具体的には、本論文の第1章で詳述したように、教師が「正しい教師像」を過度に演じることは、子どもに対しても「理想的な子ども像」を演じることを強いる結果となり、教室内が両者の表層的な関係に閉じ込められてしまう危険性を孕んでいる。また、こうした行為が形式的な「遂行」へと傾斜することで、教育そのものが形骸化し、教師自身の存在論的な葛藤や苦しみを生むといった否定的側面が指摘できる。その一方で、第2章で考察したように、「演技性」は単なる偽りや負担ではなく、状況に応じてそれを自覚的に用いることができれば、学級経営を安定させ学習を促進させる基盤ともなり得る。このように、教育的意義を持ち得る演技性の肯定的側面を再評価する視点もまた重要である。結論として、教師の演技性を単なる「偽り」や「負担」として遠ざけるのではなく、むしろ教育を支える大切な力として捉え直すことが可能となった。本論文を通して、ただ「模範を演じる」ことで生じる息苦しさを乗り越え、自分らしく「演技性を活かす」ことで子どもとの豊かな関係を築いていくような、これからの教師のあり方を探求するための第一歩が踏み出された。
初等教育学専攻 秋澤美嘉
本論文は、子どもが安心して挑戦し、失敗を成長へと結び付けられる「失敗してもいい学級づくり」の在り方を、心理的安全性と居場所感の視点から理論的に探究したものである。背景には、筆者自身が失敗を恐れて発言をためらっていた経験や、教育実習で挑戦できずにいる子どもの姿に出会ったことがある。教師の関わり方一つで学級の雰囲気や子どもの挑戦意欲が大きく変わるという実感が、本研究の出発点となった。第1章では、Society5.0や価値観の多様化を踏まえ、現代に求められる教師像と学級経営の意義を整理し、学級を主体的・協働的な学びを支える教育的環境として位置付けた。第2章では、子どもが関係性の中で「ここにいていい」と実感する居場所感の重要性を明らかにし、安心感と所属感の保障が学級経営の基盤であることを示した。第3章では失敗を学びの契機として再定義し、教師の言葉かけや価値観が挑戦を支える学級文化を形成する鍵であると論じた。以上を踏まえ第4章では、心理的安全性と居場所感を統合した学級づくりモデルを提示した。本モデルは、➀学級目標を通した人間関係づくり、➁学習活動における構造的支援、③教師の言葉かけによる文化形成の三層から構想され、学級を生活共同体として捉える視点を示した。本研究は理論的考察にとどまるが、子どもが安心して挑戦できる学級経営の方向性を示した点に意義がある。子どもの可能性を広げる学級経営の一助となることを期待する。
初等教育学専攻 村上瑠菜
本論文では、子どもの育ちを可視化することによって生まれる保育者と保護者の双方向的なやりとりが保護者の子育て意識や行動に与える影響について探究し、保育の可視化の意義について明らかにすることを目的とした。
第1章では、多様な保育ニーズが高まる現代の日本の子育て環境について概観した。その結果、保護者の就労状態の変化や核家族化、地域コミュニティーの希薄化、子育て観の変化などが複雑に絡み合い、子育てを社会的な営みと捉えにくい、孤立した子育てが生じやすい現状が明らかになった。
第2章では、日常の保育の意図や子どもの姿を保護者に共有することが子どもの育ちや親の成長実感に関係していることから、保育の場と家庭とが連携した保育を行うことの重要性や、保育の可視化は家庭連携や保育の振り返りに役立つことが明らかになった。
第3章では、保育者と保護者のインタビュー調査とその結果分析から、保育の可視化は双方の信頼関係や子ども理解の基盤を築き、保育者同士や保護者同士、他の子どもとの相互的な関わりを生成するなど、多様な側面から家庭連携を支えていることが見えてきた。
第4章では、インタビュー結果を踏まえた総合考察を行った。その結果、保育者の温かいまなざしが感じられる保育の可視化は子どもを共感的に見ようとする姿勢や多様な関係性の広がりにつながることが見出された。そのような子どもの育ちを共に喜び合える関係性の広がりは、保護者の安心感や信頼感を生み、子育てに対する前向きな気持ちを支え、他者と相互に支え合おうとする関係性の構築を促すことが明らかとなった。
初等教育学専攻 吉岡舞乃
本論文は、日本とフィリピンの比較分析を通じ、教育が子どもの幸福度に与える影響と、持続的に幸福度を高める教育の在り方を探求するものである。
1. 日本の教育における強みと課題
日本の教育は、PISA調査で示される世界トップレベルの基礎学力と教育機会の均等性を誇る。しかし、不登校や若年層の自殺者数の増加は深刻であり、精神的幸福度は先進国の中で極めて低い。この背景には、過度な同調圧力を生む画一的な教育システムがあり、子どもの自尊感情や心理的安全性を阻害している現状がある。
2. フィリピンの教育における強みと課題
フィリピンは、宗教観に根ざした家族・地域の強い絆が精神的レジリエンスの源泉となっており、主観的幸福感が高い。一方で、深刻な経済格差が教育機会の不平等に直結している。それを裏付ける事実として、現地調査で分かった、学校に通えずに労働を強いられているスラム地域の子ども達の姿は、貧困の連鎖という過酷な現実を物語っていた。
3. 結論
両国の課題解決の鍵は、強みを学び合う相互学習(ピア・ラーニング)にある。日本の質の高い教育フレームワークはフィリピンの格差是正に寄与し、フィリピンの包摂的な文化は日本の子どもの心理的孤立を解消する一助となる。互いの教育文化を尊重し、対等なパートナーとして協働する枠組みの構築こそが、子ども達の持続的な幸福を育むために不可欠である。
初等教育学専攻 池澤優衣
本研究では、小学校における音楽科教育の意義を明らかにすることを目的とし、音楽科教育の歴史的変遷の整理と意識調査の分析という2つの観点から検討を行った。
序論(第1章)に続き第2章および第3章では、戦前期・戦後期の音楽科教育について、その意義がどのように語られてきたのかを整理した。第4章では、日本音楽教育学会が2023年に実施した「小・中学生の生活と音楽に関する調査2023」をもとに、子どもの音楽に対する意識を分析した。ここでは、小学生の多くが音楽の授業を好意的に捉えている一方で、音楽の習い事経験や性別による差が、授業への感じ方に影響していることが明らかになった。第5章では、筆者が実施した音楽科教育に関するアンケート調査を分析した。アンケートの結果からは、音楽の授業に対して肯定的な意識を持つ人が一定数存在する一方で、学習内容や授業の在り方によって受け止め方に差があることが明らかになった。
音楽科は単に音楽的な技能を育てるだけの教科ではなく、非認知能力の育成、情緒の安定、自己表現の促進、協調性の育成など、子どもの成長にとって欠かせない多面的な働きを持っているのではないか。だからこそ、音楽教育はこれからの学校教育の中でも重要な役割を果たし続けるべきであり、より充実した形で子どもたちに提供されていく必要があるだろう。
初等教育学専攻 小座野幸
本論文は、日本の中学校英語教育におけるコミュニカティブアプローチの可能性について、利点を生かしつつ課題を克服する授業デザインを検討することを目的とした。
調査の結果現在の中学校英語教育には、教育ビジョンの不明確さ、指導語彙数、実際のコミュニケーションに近い学習の不足、入試英語の影響、校種間連携の不足という5つの課題があることが明らかになった。また、コミュニカティブアプローチには学習意欲の向上、英語を「使う」学習への転換、主体的な気づきの促進といった利点がある一方、指導・試験方法の不明確さ、形式化されたコミュニケーション、正確さへの意識低下、コミュニケーションに対する苦手意識といった課題も確認された。特に苦手意識は言語的要因に加え、日本語との一対一を求める思考や学習環境が影響しており、対話を通じた成功体験が苦手意識を軽減することが示された。
これらを踏まえ、コミュニカティブアプローチは本物のコミュニケーションを追求し、生徒の主体的・協働的な学びを促す点で現状の課題を克服し得ると考察した。そこで「生徒の苦手意識を克服し利点を生かす実践は何か」を問いとし、第2学年比較級の指導案を作成した。指導案では、実際のコミュニケーション場面に近い文脈に基づく文法・語彙指導、安心できる学習環境、自己成長を実感できる活動と評価、主体的・協働的な活動の4点を柱とした。今後は生徒の実態に即して適切に調整した実践が重要だと結論づけられる。
初等教育学専攻 宮原百花
本研究は、「共感」の視点から0歳児クラスの子どもの言葉を用いずに行う相互交渉の実態とその特性を明らかにすることを目的とした。従来、乳児期の相互交渉は大人との関わりに焦点が当てられることが多く、子ども同士の関わりについては十分に検討されてこなかった 。これらをふまえ、本研究では、0歳児クラスにおける言葉を用いない子ども同士の相互交渉を「共感」の視点から分析し、乳児期における協同性の芽生えとその特性を明らかにすることを目的とした 。
調査方法は認定こども園での参与観察を用いた。相互交渉の「開始」に着目して事例を分析した結果、以下の3つのカテゴリーが抽出された。<身振りに惹かれて始まる共感>他児の魅力的な動きを模倣し、つながる中で楽しさを理解していく姿 。<意図せず引き込まれることから始まる共感>同じ場を共有するうちに、友だちの思いに触れていく姿 。<安心できる他者との関係性から始まる共感>保育者や友だちへの信頼を基盤に、気持ちを共有していく姿 。総合考察では、0歳児の相互交渉を個人の能力発達ではなく、共感を通じた「世界の広がり」として捉え直した 。協同性は能動的な意思を持つ個の集合としてだけでなく、乳児期からの共感的なつながりの中にもその芽生えがみられる 。以上のことから、0歳児の相互交渉を個々の発達だけでなく「世界の広がり」として丸ごと捉える視点こそが、大人視点に捉われない子ども自身の協同性を理解する上で重要であると示唆された 。
教育学専攻 岩﨑あおば
本研究では、中学・高等学校の社会科を主な対象とし、「知識構成型ジグソー法」において、建設的相互作用をとおした協調学習が生まれる時、学習者の認知過程では何が起こっているのかを明らかにし、より良い支援のあり方を検討した。
まず、「主体的・対話的で深い学び」の概念を手掛かりに、求められる協調学習の具体像は、単に問題の正解を出す「できる」を超え、「深い理解」へ向かうものであり、そのための教育は知識の教授から、思考や対話の繰り返しによる「過程」の支援へ移行しつつあることを示した。
次に、「知識構成型ジグソー法」による高校2年生世界史探究の授業1単元分(9時間)の発話記録や授業前後の解答記述を分析した。分析前に、9時間目の方が期待する要素をふまえた解答が増えると予想したが、結果は異なった。この原因を探るため、9時間目における3名の授業後の記述を「表象レベル」に着目して更に分析したところ、1人は内容理解に加えて自身の考えも記述していることから状況モデルの表象を形成していると言え、2人はプリント内の文章を自分の言葉で結びつけながら記述しているものの、理解が不十分で、表層形式とテキストデータの中間にいるとみなすことができた。そこで、9時間目の課題は、単元を通した問いとして抽象的で、生徒にとって認知的負荷が高かったのではないかと考察した。
以上のことから、「知識構成型ジグソー法」を有効活用するためには、内的情報処理として質の高い表象形成に焦点を当て、学びの過程を支援する授業デザインが重要であると結論づけた。
2026年度修士論文
修士論文を紹介します。
人間科学専攻教育研究領域 博士前期課程 宮城陽奈
本論文の目的は、小学校教員が抱える「生と死の教育」を実践する際の困難さを明らかにした上で、その困難さを軽減・緩和するための支援の在り方や体制の構築について検討することだ。
社会・家庭において「死」がタブー視されている現代では、学校教育においても「生と死の教育」の実施が少ない状況だ。また、先行研究から、学校で本教育を実践する困難さとして、本教育の制度面における困難さや、本教育に対する教師の意識や指導に関する困難さが明らかになっている。しかし、先行研究では、「個」としての教員や子どもなど、「個別性」に依拠した「生と死の教育」を実践する困難さについては十分に論じられてこなかった。
そこで、本論文では、「生と死の教育」の授業実践経験をもつ小学校の教員2名に対するインタビュー調査、調査結果のSCATによる分析を行い、教師や子どもの「個別性」と、その個別性を内包する「包括性」に焦点を当てて考察を行った。その結果、まず「死」や「生」について子どもに伝える責任感から心理的な負担を抱く中で本教育を実践する困難さや、個々に異なる「死」に対する子どもたちの考えを捉える困難さなど、「個」をめぐる「生と死の教育」の困難さが示された。次に、「生と死の教育」における個別性として、子どもたちの「死」の捉え方の違いを踏まえた上での授業実践や、死別経験を有する子どもへの配慮などが明らかになった。また、「生と死の教育」の包括性として、全ての子どもを対象に体系化・カリキュラム化された授業内容や、本教育を実践する上で基盤となる宗教の教えなどが明らかになった。最後に、「生と死の教育」を実践する教師への支援について検討を行った。具体的には、学校が、1人1人の教員が本教育の授業経験を積み重ねる機会を設けること、つまり、教員が本教育の実践に継続的に取り組み、理論(包括性)と実践(個別性)を往還させることを述べ、本論文の結びとした。
人間科学専攻教育研究領域 博士前期課程 佐久間優結
本研究は、 「障がい児の社会的なつながりの育みに関する研究 ―児童館での事例を通し
て―」をテーマとして行った。
まず、第 1 章では、障がい児とその家族が社会で過ごす上での生きづらさとそれに対す
る改善策を探り、人が社会の中で生きていくことの必要性を先行研究からまとめた。
次に、第 2 章では、障がい児が過ごす場についての整理を行い、障がい児が利用してい
る児童館でのソーシャル・ネットワークの可能性について、先行研究をもとに検討した。
更に、第 3 章・第 4 章では、本研究の目的を①障がい児がどのように児童館で過ごして
いるのか ②障がい児が児童館という場で過ごすこととはどのような意義があるのかとし、
参与観察とインタビュー調査を通して分析を行い、考察をした。
①に関しては、参与観察を通して 4 人の観察対象者(障がい児)が他者との交流を深め
るプロセスが見出され、その背景には、支援者によるすべての子どもに対する公平性を意
識した支援と合理的配慮が働いていることが明らかになった。支援者が介入することによ
って、他児とのかかわり合いの中で障がい児が気持ちの折り合いを付けたり、他児との遊
びに障がい児が参加したりするなどの姿が確認できた。
また、②に関しては、インタビュー調査(対象者:障がい児の保護者、児童館の職員)
による分析を通して「障がい児のみを対象とした場で過ごす障がい児の現状」「すべての
子どもに開かれた児童館という場でなされる支援」「児童館で過ごすことで変化した利用
者(子ども・保護者)の姿や心境」という 3 つのキーワードが抽出された。結論として、
障がい児が児童館を利用する意義は、障がい児が、療育から解放される場とであうこと、
また、様々な人との交流を重ねることで社会的な育みが促されること、そして、障がい児
が緩やかなインクルーシブの場で自分らしさを発揮できることであることが明らかになっ
た。また、その背景には障がい児の受入れを可能にするための環境づくりや人と人とを繋
げることについての職員の専門性と様々な合理的配慮が必要となっていることが分かった。
人間科学専攻教育研究領域 博士前期課程 佐久間優結
本研究は、 「障がい児の社会的なつながりの育みに関する研究 ―児童館での事例を通し
て―」をテーマとして行った。
まず、第 1 章では、障がい児とその家族が社会で過ごす上での生きづらさとそれに対す
る改善策を探り、人が社会の中で生きていくことの必要性を先行研究からまとめた。
次に、第 2 章では、障がい児が過ごす場についての整理を行い、障がい児が利用してい
る児童館でのソーシャル・ネットワークの可能性について、先行研究をもとに検討した。
更に、第 3 章・第 4 章では、本研究の目的を①障がい児がどのように児童館で過ごして
いるのか ②障がい児が児童館という場で過ごすこととはどのような意義があるのかとし、
参与観察とインタビュー調査を通して分析を行い、考察をした。
①に関しては、参与観察を通して 4 人の観察対象者(障がい児)が他者との交流を深め
るプロセスが見出され、その背景には、支援者によるすべての子どもに対する公平性を意
識した支援と合理的配慮が働いていることが明らかになった。支援者が介入することによ
って、他児とのかかわり合いの中で障がい児が気持ちの折り合いを付けたり、他児との遊
びに障がい児が参加したりするなどの姿が確認できた。
また、②に関しては、インタビュー調査(対象者:障がい児の保護者、児童館の職員)
による分析を通して「障がい児のみを対象とした場で過ごす障がい児の現状」「すべての
子どもに開かれた児童館という場でなされる支援」「児童館で過ごすことで変化した利用
者(子ども・保護者)の姿や心境」という 3 つのキーワードが抽出された。結論として、
障がい児が児童館を利用する意義は、障がい児が、療育から解放される場とであうこと、
また、様々な人との交流を重ねることで社会的な育みが促されること、そして、障がい児
が緩やかなインクルーシブの場で自分らしさを発揮できることであることが明らかになっ
た。また、その背景には障がい児の受入れを可能にするための環境づくりや人と人とを繋
げることについての職員の専門性と様々な合理的配慮が必要となっていることが分かった。
人間科学専攻教育研究領域 博士前期課程 小坂杏子
本研究の目的は、言語的文化的に多様な生徒を対象として、自尊感情の維持・向上のための一般的な授業場面と授業以外の日常の学校生活場面での「認める」「認め合う」活動が生まれる環境と教師の生徒への関わり等について明らかにすることである。日本の学校に通う言語的文化的に多様な生徒は、特有の課題を抱えており、言語的文化的に多様な生徒は、自尊感情の危機に直面する可能性が考えられる。自尊感情が低くなると、つまずきから抜け出せなくなり、前向きな考えが持てなくなるといった課題が生じる。言語的文化的に多様な生徒の自尊感情の維持・向上、課題を解決するための施策、実践として、本研究では、「認める」「認め合う」という営みが重要であると捉え、その構造を明らかにしていくこととした。第1章では、対象とする子どもの本研究における呼び方と定義について示した。そして、日本社会における言語的文化的に多様な子どもの状況と特有の課題について明らかにした。第2章では、自尊感情の定義を示した。また、自尊感情が低いことで生じる課題や自尊感情の目指すべきところ、本研究における対象である言語的文化的に多様な子どもの自尊感情の維持・向上の重要性について述べた。第3章では、言語的文化的に多様な子どもの自尊感情の維持・向上のために行われている実践を日本語教育と多文化共生教育の視点から明らかにした。第4章では、自尊感情の維持・向上において、自尊感情を高めるためによく行われる「ほめる」とは異なる「認める」「認め合う」の重要性について明らかにした。第5章では、筆者が行ったインタビュー調査から明らかになった、言語的文化的に多様な生徒の自尊感情の維持・向上のための一般的な授業場面と授業以外の日常の学校生活場面における「認める」「認め合う」営みが生まれる環境と教師の関わりについて論じた。
人間科学専攻教育研究領域 博士前期課程 者凡毓
本研究は、中国の小学校の国語科担当とクラス担任という複合キャリアを有する中堅教師5名(男性2名、女性3名。任期10年以上)を対象に、複合キャリアに関するライフコースの特徴を明らかにすることを目的とした。研究方法は、教師の初任期から調査時点までの各時期ごとに、キャリア形成に影響を与えたと想定される各時期の決断、葛藤などのライフイベントに従い、半構造化インタビューを実施した。その結果、中国の国語科教師・クラス担任のライフコースの特徴が主に6つ浮かび上がった。①教師という職業を選択した主な理由は自分の教師や親の影響を受けたことである。②5名の教師全員がクラス担任を始めた理由の一つに「学校側の配分」を挙げている。③クラス担任業務に関する研修がない。④キャリア形成におけるジェンダー差がある。⑤5名の教師全員が教育政策や教育改革の影響を受けている。⑥4名の教師は、将来も引き続きクラス担任を務めながら国語指導を担当したいと考えている。また、中国の国語科教師・クラス担任のキャリアの特徴は主に4つがあることが浮かび上がった。①中国の国語科教師・クラス担任这种複合キャリア形成の要因は学校側の業務配分にある。②複合キャリアにおける負の側面は、自身の時間とエネルギーが全く足りていないことである。③複合キャリアにおいて、クラス担任教師は他の教師よりも生徒の状況をより深く理解している。④複合キャリアの教師は昇進機会が多い。最後に、中国の国語科教師のキャリア形成におけるクラス担任の経歴が果たす役割には主に5つの側面があることがわかった。①昇進の機会と社会的威信の向上。②達成感と充足感の創出。③教師としての能力の向上。④業務量を増大させ、学級管理における煩雑な雑務が多いためにプレッシャーがさらに増すこと。⑤コミュニケーション能力の強化である。